寺子屋

書評ブログです.

2024-01-01から1年間の記事一覧

書評「バグは本当に虫だった-なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話」増田 義郎

IT関連のミニエピソードがまとめられている.どのエピソードもウィットに富んでおり,この界隈のいたずらっけは今も昔も変わらないなという感じ. つまみ食い感は否めないので,ストーリーとしておもしろさは個々の登場人物の自伝などを読んだ方がよいだろう…

書評:「もうダメかも 死ぬ確率の統計学」Michael Blastland, David Spiegelhalter

人生における様々な場面で,本当に死に至る確率を紹介した一冊. 改めて数字を見ると,人間はドラスティックな死因に対しては過大評価,些細なリスクについては過少評価しがちということがわかる.著者らがまとめた,各種線源から浴びる放射線量一覧やハザー…

書評:「できる人の語彙力が身につく本: 一目置かれる“大人の伝え方”! 」語彙力向上研究会

最近,そもそも語彙という単語を知らない人も世の中には存在していることを知り面を食らった. 多種多様な言い回しを巧みに操って会話を紡ぐ人は好印象である.一方で,明らかに相手が知らない言い回しを多用して,やみくもに混乱させるのもまた御法度である…

書評:「裁判中毒 傍聴歴25年の驚愕秘録」今井 亮一

裁判傍聴マニア,ジャーナリストの著者が,自身が傍聴した裁判で印象に残ったものをまとめている. 素人向けに裁判の仕組みを丁寧に解説しつつ,法廷現場でしか見られない被告,検察,裁判官のやりとりを仔細に綴っている. 著者は興味をもった事件について…

書評:「田中角栄 魂の言葉88」昭和人物研究会

田中角栄の発言やエピソードをまとめた一冊. 見開き1ページにひとつの発言やエピソードがまとめられており,それが88続く. 田中角栄の関連書籍など,どこかで聞いたことのあるような内容も多いが,さらっと読めるので,田中角栄の人となりを簡単に知るには…

書評:「青年の大成」安岡 正篤

本書は,明治生まれの哲学者,思想家である安岡正篤が1963年に日光で行った4日間に渡る講演の内容をまとめたもの. 若い人たちに向けて,精神的自律や自立を通して,正しく自己を確立することの意義を説いている. 「苦労の足りない幸福などあてにはならない…

書評:「宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由」小野 雅裕

著者の自伝というよりも,人生論という側面が強い.東大ーMIT-NASAと,とんとん拍子の経歴に見えるかもしれないが当時は悩み壁にぶつかっていたと著者は告白している. 生きがいとはなに?俺の生きる意味は?という問いに答えを持っている著者がうらやまし…

書評:「独学のすすめ」加藤 秀俊

独学のすすめとタイトルにあるが,教育を切り口にした人生論の本と言っても差し支えないだろう. 1975年とかなり古い本のため,すこし時代を感じるような思想も散見されるが,現在に通ずるところも多い. 「問題を作る能力」を持った学生が減ったという主張…

書評:「敗者の条件」会田 雄次

戦国の世における敗者に着目した一冊. 敗因分析をして,先天的に大将の器ではなかったとしている結論が多い.つまり,「この武将には人間的にXXの弱さがあったため,YYのような戦略をとり,その結果敗けた」という分析である. 敗因を個々の人間性について…

書評:「なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか」若松 義人

古いなあ...という印象.2006年の新書であるが,当時はこの内容は画期的だったのか? 特に新しい知見はなかった.古典を読んだということにしておこう.「誰がやってもできるプロセスを確立せよ」といのは大切. なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか (P…

書評:「リーダブルコード ―より良いコードを書くためのシンプルで実践的なテクニック」Dustin Boswell, Trevor Foucher

コーディング哲学について学ぶことができる本である. 道具としてプログラミングを行っている人にとっては,アルゴリズムが最優先でコーディングに関しては,おざなりになってしまうことが多いと思う.そしてそれを学ぶ機会も少ない.汚いコードは生産性を下…

書評:「10倍速く書ける 超スピード文章術」上阪 徹

著者が提唱しているのは,とにかく「書く素材」を集めること.たしかに,素材が揃っていれば書くことに自体はタイトルにあるように10倍速で終わるかもしれないが,その10倍速で書ききる素材を集めるのが一番大変で時間がかかることが抜けている印象. 「完璧…

書評:「読んだつもりで終わらせない 名著の読書術」樋口 裕一

あたりの本.「共感型」でしか小説を読んでいなかった.そのため,主人公に感情移入が困難なものだと自然と忌避しがちで,イコール自分に合わないと解釈していた.しかしそれができなくても小説は楽しめますよと本書は述べている. 目からウロコとは言わない…

書評:「インカ帝国探検記 - ある文化の滅亡の歴史」増田 義郎

インカ帝国の発見から滅亡に至る過程を,コンキスタドールたちの視線を主軸に,インカ文明の解説を交えながらドラマチックに描いた一冊.脚色されているのではなく,小説よりも奇な史実を色鮮やかに伝えている. インカ帝国は結局は西欧諸国に滅ぼされること…

書評:「「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史」藤田 博司

まったくわからなかった.抽象数学へのコンプレックスが深まるばかりである. ただ,「学部1年のときに読みたかった」「モヤモヤしてた箇所の気持ちがわかった」などの書評を見る限り,初学者へのロードマップとして本書は優れているのだろう.山籠もりして…

書評:「自民党幹事長 二階俊博伝」大下 英治

著者はジャーナリスト.自民党史上,歴代最長の幹事長在職日数を誇る二階俊博の伝記である.議員秘書時代を経て,県議,国政へ進出していく過程でのエピソードが紹介されている. 自民党を離党していた際の政治的立ち回りなどは複雑すぎて難しいところである…

書評:「贈与の系譜学」湯浅 博雄

「無償の贈与は存在するか」これが本書の最大のテーマと言って差し支えないであろう. どんな場面であれ贈与はなんらかの見返りを求める行為として解釈されうると著者は述べる.儀式的なものであったとしても「精神的な安寧」を求めるという意味では無償とは…

書評:「美学」Alexander Gottlieb Baumgarten

著者のカタカナ読みは,アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン.18世紀の神聖ローマ帝国・プロイセン王国出身の思想家. 本書は,美学を哲学の一領域として確立させた著者の代表作.800ページにも及ぶ大作でありパラパラと眺めるのも一苦労であり,…

書評:「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」加藤 文元

IUT理論の一般向け啓蒙書.望月教授と個人的に関わりの深い著者が,彼とのエピソードなどを交えながら,IUT理論の一端を紹介している. 著者自身も本書の中で度々断っているが,IUT理論の詳細な理論は割愛されており,哲学的な考え方を伝えるに留まっている…

書評:「超加速経済アフリカ―LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図」椿 進

著者はアフリカ関連ビジネスコンサル.自身もルワンダでマカダミアナッツ農園を経営. 本書は,日本にとって馴染みの少ない最近のアフリカ動向を紹介した一冊.間違いなくアフリカの印象が変わる.今のアフリカ諸国は,リープ・フロッグ・イノベーションとい…

書評:「定理が生まれる: 天才数学者の思索と生活」Cédric Villani

フィールズ賞受賞者である著者の研究日記. 数学者の日常や,研究者界隈のアレコレを垣間見ることができる.ゴムボックという存在をはじめて知った. 定理が生まれる: 天才数学者の思索と生活作者:セドリック・ヴィラーニ早川書房Amazon

書評:「Googleの72時間 東日本大震災と情報、インターネット」林 信行,山路 達也

3.11の際にGoogleが果たした役割についてよくまとまっている.というよりも,”Googleの社員”が果たした役割という方が適切だろうか. 本書では,タイトルに72時間とあるように,初動的な対応について述べられている.とにかく,スピードと行動力が凄まじいこ…

書評:「ウォール街の物理学者」 James Owen Weatherall

本書は,金融の世界に物理学が浸透していった様子を人物に焦点を当てて解説している. なかなかドラマがあっておもしろく,様々な理論が確立されていく様子を俯瞰することができた.マンハッタン計画やアポロ計画が終了し,物理学者たちが金融に手を出してい…

書評:「啓発録」橋本 左内

橋本左内については高校で日本史の授業で習ってから気になっていた.そんなわけで今回,啓発録に触れることができてよかった. 本書については,現代語訳もわかりやすく,また原文も掲載されているので引用する際などに役にたちそうだ.自分を律する姿勢を常…

書評:「図解・首都高速の科学」川辺 謙一

首都高にまつわる色々をまとめたブルーバックス.首都高を走行していると,とんでもない構造をしてるなと思う箇所が多々あるが,工法もなかなかとんでもないなと知ることができる一冊.いわゆる蘊蓄本の類いになってしまうかもしれないが,少しでも興味のあ…

書評:「通信の世紀: 情報技術と国家戦略の一五〇年史 」大野 哲弥

通信に関する近現代外交史を俯瞰できる一冊.まず海底ケーブルの話から始まり,本書後半では国内通信事業者(NTTやKDD)の組織的経緯までを解説している. おもしろいのは,前半部の海底ケーブルの敷設権利および使用権を巡る各国の思惑,やり取りなどに関する…

書評:「関係人口の社会学 人口減少時代の地域再生」田中 輝美

著者は地方新聞の記者を経て,現在は島根県立大学地域政策学部准教授.地方や過疎地域における社会学が専門.「関係人口」とは,「定住人口」(移住)でもなく,「交流人口」(観光)でもない特定の地域に様々なかたちで関わるよそ者的な人々を指す語である.深…

書評:「経済学と合理性: 経済学の真の標準化に向けて」清水 和巳

著者は経済学者.専門は行動経済学,実験政治経済学,意思決定理論.本書は,経済学,ゲーム理論などの諸々の分野で,多くの場合に前提となっている「合理的経済人仮説」について扱った一冊である. 誰しも経済学を学んでいく上で一度は,「現実の主体(人間…

書評:「世界最高峰の頭脳集団NASAに学ぶ決断技法 不可能の壁を破る思考の力」中村 慎吾

著者はMITでMBAを取得しており,エンジニアリング・マネジメント双方に明るい.NASAのプロジェクトの多くは,多数の要因が複雑に作用し,「あちらを立てれば,こちらが立たず」状態になる.この時に,(1)プロジェクトの目的関数の設定,(2)要因間の相互作用…

書評:「歌うカタツムリ 進化とらせんの物語」千葉 聡

カタツムリは殻の形状や色が個体群ごとに差異があり,進化の研究の題材として手ごろなのだそう.そんなカタツムリ(貝類)を主役に,「なぜここのカタツムリはこの形状なのか」,「なぜ谷を越えると殻の模様が変わるのか」など素朴な疑問を説明する進化のメカ…