通信に関する近現代外交史を俯瞰できる一冊.まず海底ケーブルの話から始まり,本書後半では国内通信事業者(NTTやKDD)の組織的経緯までを解説している.
おもしろいのは,前半部の海底ケーブルの敷設権利および使用権を巡る各国の思惑,やり取りなどに関する記述である.強かな英米に対して通信施設の有意性をどう確保するかという日本の苦悩を知れる.また,12.8真珠湾攻撃直前の外務省と駐米大使館とのやり取りについては本書の中で最も丁寧に解説されている.対米最終覚書の通知が間に合わなかった原因の考察は読みごたえがある.
- 対米最終覚書が14報からなっていたこと
- 4報目はとんでもない遅着だったこと.(交渉打ち切りの核心が記述されていた)
- 14報の間に慰労電報なんぞが挟まれていたこと
- Very Importというこれまでに使われたことのない優先順位ラベルを使用したこと
- あくまで対米最終覚書はハーグ条約の定める宣戦布告通知にはあたらないこと
などは教養として覚えておくべきことだと思った.
余談だが,海外の著者の本では,真相はどうであれ,真珠湾攻撃が戦線布告のない奇襲攻撃だと断定的に書かれることが多い.しかし,Subrahmanyam Jaishankar(スブラマニヤム・ジャイシャンカル)の「インド外交の流儀:先行き不透明な世界に向けた戦略」では,通信ミス・伝達ミスにより,宣戦布告が遅れたとの記述がなされている.この本は,インド外務大臣によるインド外交の書である.なお,増版がなかなかされず品薄だったが,最近されたよう.