寺子屋

書評ブログです.

書評「バグは本当に虫だった-なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話」増田 義郎

IT関連のミニエピソードがまとめられている.どのエピソードもウィットに富んでおり,この界隈のいたずらっけは今も昔も変わらないなという感じ.

つまみ食い感は否めないので,ストーリーとしておもしろさは個々の登場人物の自伝などを読んだ方がよいだろう.

(余談だが)この点では,「スティーブス」というapple創世記漫画はおもしろかった.

書評:「もうダメかも 死ぬ確率の統計学」Michael Blastland, David Spiegelhalter

人生における様々な場面で,本当に死に至る確率を紹介した一冊.

改めて数字を見ると,人間はドラスティックな死因に対しては過大評価,些細なリスクについては過少評価しがちということがわかる.著者らがまとめた,各種線源から浴びる放射線量一覧やハザード別死亡率一覧は,とてもわかりやすかった.主人公のライフイベントを小話しつつ,数字を紹介する本書の形式が鬱陶しいが,それでも一読の価値はアリ.正しく恐れるためには知識が必要である.

書評:「できる人の語彙力が身につく本: 一目置かれる“大人の伝え方”! 」語彙力向上研究会

最近,そもそも語彙という単語を知らない人も世の中には存在していることを知り面を食らった.

多種多様な言い回しを巧みに操って会話を紡ぐ人は好印象である.一方で,明らかに相手が知らない言い回しを多用して,やみくもに混乱させるのもまた御法度である.例えば留学生との会話などに故事成語を連発するというなどは嫌がらせに他ならない.

このような時と場所を意識して,いい感じの文章で話すには,やはり語彙力が必要である.パラパラと眺めるだけでも本書はおもしろい.半分くらいは知らない語彙だった.

書評:「裁判中毒 傍聴歴25年の驚愕秘録」今井 亮一

裁判傍聴マニア,ジャーナリストの著者が,自身が傍聴した裁判で印象に残ったものをまとめている.

素人向けに裁判の仕組みを丁寧に解説しつつ,法廷現場でしか見られない被告,検察,裁判官のやりとりを仔細に綴っている. 著者は興味をもった事件については,事件現場に直接足を運ぶというようなこともしているらしく,事件の取材記録としても興味深い.

法律や裁判の実態についても語られている.珍しい罪名の一覧などは面白かった. また警察,検察が駆使してくるテクニックも勉強になる. 著者は裁判官については基本的に肯定的であるが,「どっちもどっちのときは,検察の主張については正しい理由をムリにも探し,被告人,弁護人の主張については,徹底的に疑いぬくんだなぁ!」と述べられていた.

個別の裁判エピソードについては人間ドラマとして興味深く読めるのに加えて,法と裁判に対しても教養を深めることができるが一冊.

書評:「田中角栄 魂の言葉88」昭和人物研究会

田中角栄の発言やエピソードをまとめた一冊.

見開き1ページにひとつの発言やエピソードがまとめられており,それが88続く. 田中角栄の関連書籍など,どこかで聞いたことのあるような内容も多いが,さらっと読めるので,田中角栄の人となりを簡単に知るには良いかもしれない.

平成生まれの筆者にとっては,田中角栄は歴史上の自分という色が濃い.豪快な政治家だったのだなと思う.

書評:「青年の大成」安岡 正篤

本書は,明治生まれの哲学者,思想家である安岡正篤が1963年に日光で行った4日間に渡る講演の内容をまとめたもの. 若い人たちに向けて,精神的自律や自立を通して,正しく自己を確立することの意義を説いている.

「苦労の足りない幸福などあてにはならない」,「病弱,多忙,貧乏などが自身を鍛錬する妙薬になる」など,基本的にはひたむきに努力せよということが説かれている. 昨今のコスパとかタイパとかを標榜する風潮とは異なり,非常に心地よい教えである.

このように勉学や鍛錬の重要性を解く一方で,

人間たることにおいて,何が最も大切である.これをなくしたら人間ではなくなる,というものは何か.これはやっぱり徳だ,徳性だ.徳性さえあれば,才知・芸能はいらない.否,いらないのじゃない,徳性があれば,それらしき才知・芸能は必ずできる.

とも述べている.徳をおろそかにすると,自己の内生的充実もなければ,他者からの信頼や承認による外生的充実も得ることができないというように読み取れる.また,才知・芸能を磨くことを言い訳にして,人間としての徳をおろそかにしてはならないというようにも聞こえる.

終始一貫して,太古の昔から変わらないような人として失ってはならない教訓を本書は提供している.定期的に読み返したい.

書評:「宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由」小野 雅裕

著者の自伝というよりも,人生論という側面が強い.東大ーMIT-NASAと,とんとん拍子の経歴に見えるかもしれないが当時は悩み壁にぶつかっていたと著者は告白している.

生きがいとはなに?俺の生きる意味は?という問いに答えを持っている著者がうらやましい.