寺子屋

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書評:「青年の大成」安岡 正篤

本書は,明治生まれの哲学者,思想家である安岡正篤が1963年に日光で行った4日間に渡る講演の内容をまとめたもの. 若い人たちに向けて,精神的自律や自立を通して,正しく自己を確立することの意義を説いている.

「苦労の足りない幸福などあてにはならない」,「病弱,多忙,貧乏などが自身を鍛錬する妙薬になる」など,基本的にはひたむきに努力せよということが説かれている. 昨今のコスパとかタイパとかを標榜する風潮とは異なり,非常に心地よい教えである.

このように勉学や鍛錬の重要性を解く一方で,

人間たることにおいて,何が最も大切である.これをなくしたら人間ではなくなる,というものは何か.これはやっぱり徳だ,徳性だ.徳性さえあれば,才知・芸能はいらない.否,いらないのじゃない,徳性があれば,それらしき才知・芸能は必ずできる.

とも述べている.徳をおろそかにすると,自己の内生的充実もなければ,他者からの信頼や承認による外生的充実も得ることができないというように読み取れる.また,才知・芸能を磨くことを言い訳にして,人間としての徳をおろそかにしてはならないというようにも聞こえる.

終始一貫して,太古の昔から変わらないような人として失ってはならない教訓を本書は提供している.定期的に読み返したい.