寺子屋

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書評:「インカ帝国探検記 - ある文化の滅亡の歴史」増田 義郎

インカ帝国の発見から滅亡に至る過程を,コンキスタドールたちの視線を主軸に,インカ文明の解説を交えながらドラマチックに描いた一冊.脚色されているのではなく,小説よりも奇な史実を色鮮やかに伝えている.

インカ帝国は結局は西欧諸国に滅ぼされることになるが,インカ帝国自体も南米では数々の部族を征服してきた.そんなインカ帝国の戦略のひとつが「征服した部族の異教の神の存在を認める,ただしその上に太陽神がいる」という方法である. 太陽神はインカ帝国の神である.統治をうまく行うために,異教だとしてもその神自体の存在は認めるのだ.その上で,信仰先の上下関係を設けて,部族間の主従関係を明示している. このような手法は,0か1かの改宗を迫るキリスト教(たぶんイスラム教も?)とは異なり興味深い.

インカ文明には,創造主ビラコチャという創世主的神格があった.天地や人間を創造したと崇拝されている.そして,このビラコチャは白い人間だと伝えられてきた. 西欧人がインカ文明に侵入したきたとき,彼らを見たインカの民はビラコチャの降臨だと思ったとかなんとか,そのような奇妙なエピソードも紹介されている.

結局,圧倒的武力差と様々な策略によって,インカ帝国は滅ぼされてしまう.毎度世界史に触れて思う「キリスト教徒は過去ロクなことしていない」を改めて感じる. 本書では,征服者ピサロの残忍/野心/恐怖などの多様な側面にも言及している.