寺子屋

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書評:「経済学と合理性: 経済学の真の標準化に向けて」清水 和巳

著者は経済学者.専門は行動経済学,実験政治経済学,意思決定理論.本書は,経済学,ゲーム理論などの諸々の分野で,多くの場合に前提となっている「合理的経済人仮説」について扱った一冊である. 誰しも経済学を学んでいく上で一度は,「現実の主体(人間)はそんなに合理的でない」と思うのではないだろうか.事実,合理的経済人仮説に基づく理論的結果は,必ずしも現実の経済現象を"よく"記述しない.

本書では,このような論点を題材に,最もシンプルな合理的経済人仮説(効用最大化原理に忠実に従う主体を前提とする)とは何か,その限界とは何かを順番に説明し,続いて克服のための諸々の試みを紹介している.最もシンプルな効用最大化モデルは,主体の行動があまりに単純化されすぎという表面上の懸念のみならず,均衡解の不安定性(均衡解近傍で主体の最適行動が著しく変化する)などの懸念も生じる.こういった問題に対し,ランダム効用理論や限定合理性などの枠組みが発展した経緯がまとめられている.

これらの歴史的経緯をまとめつつ著者は,合理的経済人を基礎とする理論・モデルから出発することが最良だと述べている.理由は,やはり,有象無象のモデルでは,モデルの発展の経緯や繋がりが分かりにくく,結局理論体系に常に綻びが生じるからだとしている.そして,21世紀の標準的経済学は,ミクロ的に基礎付けられた理論・モデル構築とミクロデータの活用を車の両輪として,ミクロ的な現象,マクロ的な現象の研究に進んでいくだろうと締めている.