寺子屋

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書評:「関係人口の社会学 人口減少時代の地域再生」田中 輝美

著者は地方新聞の記者を経て,現在は島根県立大学地域政策学部准教授.地方や過疎地域における社会学が専門.「関係人口」とは,「定住人口」(移住)でもなく,「交流人口」(観光)でもない特定の地域に様々なかたちで関わるよそ者的な人々を指す語である.深刻な人口減少が進む地域社会の課題を解決するための新たな地域外の主体として近年脚光を浴びている.本書では,よそ者として地域再生に貢献した何人かの個人の活動を紹介し,その事例から関係人口が地域にもたらす正の外部性を論じている.

表面上は「地方に興味を持ち,都会からやってきた若者が,地域住民との壁を乗り越えながら地域を盛り上げた」というようなありがちな話にまとまってしまっているが,個人にフォーカスをあてた分,泥臭い問題点までちゃんと語られている.なかでも印象的なのは「消滅に直面している地域住民の当事者意識の低さ」である.どこの地域でも「誰かが考えてやってくれる」,「どうせもう消滅する」というようなどこか他人事の人が多数派であり,持続可能な成長戦略あるいは撤退戦略を考えている人は役所にすらいないそうだ.そのため,必然的にある種の意識高い系よそ者と定住者には軋轢が生まれてしまう.

本書は個人にフォーカスを当てたミクロな視点で関係人口の在り方を述べているが,私はマクロな視点として「定住人口ではなく,関係人口を増やす」という戦略に地方が舵を切ることは重要だと考えている.人口減少化でパイの奪い合いをしてもしょうがないので,パイのシェアを考えるべきだ.内容とは関係ないが,社会学をテーマにした書籍にしては読みやすかった.言葉の再定義しただけという印象は受けず,考察や分析の限界も実験系の論文に近いスタイルで好印象.