寺子屋

書評ブログです.

書評:「「集合と位相」をなぜ学ぶのか ― 数学の基礎として根づくまでの歴史」藤田 博司

まったくわからなかった.抽象数学へのコンプレックスが深まるばかりである.

ただ,「学部1年のときに読みたかった」「モヤモヤしてた箇所の気持ちがわかった」などの書評を見る限り,初学者へのロードマップとして本書は優れているのだろう.山籠もりしてノートとりながら再読したい.そんな感じ.

書評:「自民党幹事長 二階俊博伝」大下 英治

著者はジャーナリスト.自民党史上,歴代最長の幹事長在職日数を誇る二階俊博の伝記である.議員秘書時代を経て,県議,国政へ進出していく過程でのエピソードが紹介されている.

自民党を離党していた際の政治的立ち回りなどは複雑すぎて難しいところであるが,よくまとまっていた.また,田中角栄との接点についても数多く書かれていた.

各章のコンテンツは次の通り.

ただ,やはり気になるのは,自伝でもないのに二階俊博の心情が断定的に記述されている点.情報源のひとつとして有用であるが,著者の脚色があるという前提で読まなければならないと感じた.

書評:「贈与の系譜学」湯浅 博雄

「無償の贈与は存在するか」これが本書の最大のテーマと言って差し支えないであろう.

どんな場面であれ贈与はなんらかの見返りを求める行為として解釈されうると著者は述べる.儀式的なものであったとしても「精神的な安寧」を求めるという意味では無償とは言えず,贈与の考察の際には常に「それは本当に贈与か」という問いが生じる. しかしながら,この無限の問いこそが贈与の本質だと著者は説く.

正直,循環論法的な結論でうまく理解できなかった.また,死者が強く意図せずして,生者に資産を残すケースは,無償の贈与になるのでは?と考えたり.

書評:「美学」Alexander Gottlieb Baumgarten

著者のカタカナ読みは,アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン.18世紀の神聖ローマ帝国プロイセン王国出身の思想家.

本書は,美学を哲学の一領域として確立させた著者の代表作.800ページにも及ぶ大作でありパラパラと眺めるのも一苦労であり,内容も難解である.しかしながら根気よく読み進めると随所に直観レベルで腑に落ちる記述がある.例えば

崇高なものは時には極めて短いし,時にはすぐれて豊麗,富裕である.ところがこれを逆にして,短ければ短いほど,または拡散すればすれるほど崇高である,と言うのは極めて悪しき歪曲である

などは,十分理解できる万事に通ずる真理ではないだろうか.また,

どんな主題についてであれ,明晰に恣意する前に輝かしく思惟しようとしてはならない.明晰にすら提示しえないものを自然な光輝で照らしうると期待するな.

なども腑に落ちる.

たとえ全体は既に知られたものであっても,何かそのどこかの部分,なんらかの位相ないし側面が他の部分,位相,側面より考察されてこなかったどうかを熟視すべきであり,(中略)(それらを)相対的な闇から引き出せ

などもメッセージ性が強い.本書全体を理解することは容易ではないいが,このように部分部分にエッセンスとなるセンテンスを見つけることはできる.

書評:「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」加藤 文元

IUT理論の一般向け啓蒙書.望月教授と個人的に関わりの深い著者が,彼とのエピソードなどを交えながら,IUT理論の一端を紹介している.

著者自身も本書の中で度々断っているが,IUT理論の詳細な理論は割愛されており,哲学的な考え方を伝えるに留まっている.一般書なので,そう書かざるを得ないのはわかるが,私にとってはもどかしい解像度だった.論文投稿掲載プロセスなどアカデミアの常識についてもわりと長く言及されている反面,IUT理論の神髄については抽象的な理念レベルの内容ではぐらかされたような気もする.

もっとも,詳細に理論を書かれたところで私には分からない気もするが,同じような数学的話題の一般書「フェルマーの最終定理」に比べて,解像度のもどかしさを強く感じた.一方で,対称性通信というIUT理論の大事な部分をなす考え方は少し感じ取れた気がする.なんらかのモノに違う系(IUT語では宇宙)で同等の操作を行い,その系でわかりにくかったモノの特性を解明するという考え方自体は,座標変換や変数変換の考え方に近いのかなと思った.なんにせよ世界で数十人しか理解できない理論という響きはかっこいい.

書評:「超加速経済アフリカ―LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図」椿 進

著者はアフリカ関連ビジネスコンサル.自身もルワンダマカダミアナッツ農園を経営.

本書は,日本にとって馴染みの少ない最近のアフリカ動向を紹介した一冊.間違いなくアフリカの印象が変わる.今のアフリカ諸国は,リープ・フロッグ・イノベーションという先進国の成長過程を飛び飛びに実現している状態だと述べている.例えば電話線も電気もないのに,スマホ普及率は100%近いなどなど.個人的に最も驚いたのはモバイル決済の普及率が9割近いということ.ありとあらゆる場所でモバイル決済(M-PESA)が前提となっているらしい.'これは金融関連の法的整備がなされてなかったため,ベンチャーが何のしがらみもなく活動できたことに起因しているらしい.

この他にも,未発達だったからこそ既得権益者や法的しがらみが少なく,先進国で導入が進まないイノベーションが数多く成功していると紹介されていた.ドローンを用いた血液輸送などもその一例だ.一方で,M-PESAを提供する通信会社や有名ベンチャー旧宗主国資本であることが多く,結局のところ植民地時代のマネ―構造と変わらないという側面もある.

全体的に著者の幅広い見識がよくまとまっており,ワクワクする内容であった.しかし,日本企業はアフリカでほとんど存在感がないというのは少し残念であった.トヨタ,カネカ,味の素などが名実ともに存在感があるものの,インフラ整備などはほとんど中国企業が請け負うらしい.著者は,日本が経験してきた成長過程を今のアフリカ諸国は辿っているとし,経済レベルがどのくらいなら何が流行するかを把握している日本は先手を打ってアフリカビジネスを展開するべきと主張している.これは大きな間違いだろう.実際はリープ・フロッグなのだから.

書評:「定理が生まれる: 天才数学者の思索と生活」Cédric Villani

フィールズ賞受賞者である著者の研究日記.

数学者の日常や,研究者界隈のアレコレを垣間見ることができる.ゴムボックという存在をはじめて知った.